【第1部】社長の独り言
〜魅力なんて、あるんですかね?〜
採用募集を出すときに、いろいろ聞かれた。
「三条工具の魅力って、何ですか?」
そう聞かれたとき、思わず「ありますかねぇ?」なんて答えてしまった。
冗談半分ではあったけど、本音でもあって。
自分にとっては当たり前になっていた日々が、他の人の目にはどう映るんだろう。
そんなことをぼんやり考えていたら、うちの社員がこう言った。
「圧力を感じないし、声を荒げる人がいない」
「チームで一緒にやるから、変なプレッシャーもないし」
……そんなことでいいの?と、内心ちょっと笑いそうになったけど、
でもそれが案外、大事なことなんだろうなと、しみじみ思った。
確かに、怒鳴る人はいない。
失敗したって、「じゃあ次はどうしようか」って一緒に考える。
トラブルがあっても、誰かがフォローする。
全員が全員を完璧に理解してるわけじゃないけど、
お互いを「恐れてない」という感覚がある。
だから、みんなで助け合える。
時間に追われる事もあるし、地味な作業も多いけど、
目の前の材料が一つひとつ形になっていくのは、やっぱり面白い。
自分たちの手で、ちゃんとモノを作るというのは、
言葉にしにくいけど、やっぱり嬉しい。
「なんでこの会社に?」と聞いても、特別な理由は返ってこない。
家から近かったとか、ものづくりやったことなかったけど面白そうだったとか、そんな感じ。
でもそれでいいと思っている。
経験がなくても、やりたいことがなくても、
ここで少しずつ、自分なりの「心地よさ」が見つけられるなら、それでいい。
「魅力になればいいですけど…」と、最後までそんな調子だったけれど、
あれから少し時間が経って思うのは――
働きやすい環境って、条件だけじゃないんだなってこと。
穏やかで、支え合えて、誰かがカエルを見て叫んでも笑って許せる。
それがうちの「らしさ」で、働く理由にもなるんじゃないかと、今なら少しだけ思える。